雪白の月

act 11

岩瀬の切ない告白に涙を浮かべた石川は―

「…でも…基寿…俺はお前が傷つくのが嫌なんだ…。たとえ、それがお前の仕事だとしても…」
「……」
「俺のそばにいなくても、お前が生きてさえいてくれれば…」

溢れた涙を拭いもせずに石川は言葉を紡いでいく。

「基寿…。俺だって離れたくなんかない…でも…俺の近くにいればお前が傷つく…だったら、俺はどうすればいい?」
「…悠さん…」

岩瀬は石川の体を抱きしめる。

「…悠さん…。俺は“SP”を辞めれません…。貴方が“警備隊隊長”を辞めれないように。それが俺達の選んだ“道”ですよね?」
「基寿…」
「だからこそ、貴方の近くに居たいんです!貴方を守りたい…。その心まで…」
「……」
「俺が怪我をするたびに、悠さんが辛い思いをしていたのは気づいていました…」
「!」
「でも、例え悠さんの”SP”を辞めたとしても、今度は違う誰かの”SP”になるんです。」
「分かってる…けど!!」
「…だから、俺は貴方を守りたい。これからは気絶するなんて無様な真似は絶対にしません!!」
「でも…基寿…怪我とかするだろう…?」
「それは…少しぐらいは許してください。大きな怪我は絶対にしませんから!」
「…基寿…。それでも俺の近くにいてくれるのか…?」
「はい。だって俺の居場所は悠さんの横ですから!それ以外は在りえないんですよ?例え貴方が“嫌だ”と言っても離れませんけどね!」
「…基寿…」
「俺の“本気”解ってくれましたか…?」

岩瀬はニッコリと笑って石川を見る。が、石川はまだ納得できていないようで…

「……」
「悠さん。“恋愛”は“お互い”だけを見て進むものではないですよ?」
「…なんだ突然?」
「いいからいいから。悠さんは“恋愛”ってどう思いますか?」
「…そんなの解らない…。解っていたらこんなに悩まない…」

石川の素直な答えに岩瀬はクスリ。と笑い…おでこをくっつけた。

「それはですね“お互いの手”を取って“同じ方向”へ“一緒に”進んでいく事なんです。」
「!」
「そうすると“一人”よりも“二人”の方が早いでしょ?目的を達成するのが。それに…」
「それに?」
「“二人”の方が強くなれますから。」
「……」
「だから。一緒に進んで行きましょう。これからもずっと…。嫌ですか?」

岩瀬の言葉が石川の体に沁みこんでいき…ストンと心の中に落ちた。
石川は覗き込んでいる岩瀬の瞳に映る自分を見て―


『あぁ…だからコイツは強いんだ…。心も体も… 俺もそうなれるのか?いや。強くなりたい…基寿と対等でいられるように。』


ズット悩んできた事に一つの答えを見つけた石川は―

「基寿…ゴメン…ありがとう」

石川は岩瀬にギュッと抱きつき…数時間ぶりに感じる恋人の暖かさを嬉しく思っていた。

「基寿…。これからも宜しくな」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」

お互いに感じる体温を愛しく思い…誓いのKissをした。

白く輝く月の元で―   



   + + +



翌日。

「お早う西脇。心配かけてゴメンな。ありがとう…Drも有り難う。もう大丈夫だよ」
「お早うございます」
「お早うございます。そうですか…よかったです」

すっかり何時も通りになった石川と岩瀬を見て、西脇と橋爪は―

「無事に乗り越えたか…。まったく手がかかるなあの二人は。」
「でも嬉しそうですよ?西脇さん。」
「そう言う紫乃だって。」
「えぇ。嬉しいですから…」

そう言って微笑む橋爪に西脇はそっと囁いた―

「…妬けるね…」
「西脇さん!!」



そして、何時もの日常が今日も始まる―                                   






-Fin-